― 適齢期突入組 ― 

 

 

 

「優もそろそろ結婚する時期なんじゃない?」

親友の沢山夏樹が横の席から私に聞いてくる。視線は花嫁に向けられたまま。

夏樹と私の視線の先にいる花嫁、関麻奈美は高校からずっと仲の良い友達。

「どうだろうね。夏樹こそ結婚はまだなの?」

「うーん、彼まだ26だし。もう少しかかるかな。30前には結婚しときたいけど」

同年齢の友達の恋愛事情のリサーチは欠かせない。

『適齢期』に突入している女同士、色々な事が頭を巡ったりする。

 

牧山優(まきやま ゆう)現在28才。職業、一般事務。趣味・特技、なし。

付き合って2年を迎えようとしている彼氏がいる。そろそろ結婚を――とは思う。

実際、彼が付き合ってすぐの頃によく口にしていた

『2年付き合ったら結婚しよう』って言葉があるから。あと一ヶ月で2年になる。

 

 

結婚式も無事に終わり、私と夏樹は2次会へと向った。

麻奈美の同僚や、新郎の同僚などが沢山参加していて、出会いの場って感じで。

目の色変えた女性陣がうようよしている。新郎が大手電気製品の会社に勤務で

最近エコ製品や、太陽光発電のパネル生産などで一層知名度を上げている会社。

世界的に名の知れ渡る会社の社員がごろごろ居るなんて、独身女には良い場。

 

 

「優、あっちで一緒に飲まないかって声掛けられたんだけど、どうする?」

夏樹は嬉しそうに聞いてきた。安月給の年下彼氏と4年も付き合っている夏樹。

結婚への焦りも人よりも強い。それを隠すようにしているようだけれどバレバレ。

「良いよ。夏樹、もしかしたら彼よりも良い男と出会っちゃったりするかもよ?」

からかっているのに夏樹は「そうだよね!」と本気顔。

澄ました顔で『食いつきの良い女友達に連れられて来ちゃった』って顔をした。

がっついているなんて思われたくもないし、実際問題会社のネームバリューでは

今付き合っている彼だって、日本で5本の指に入る製菓会社勤務だし。

 

「優ちゃんって言うんだ。麻奈美ちゃんの友達だから今年で28だよね?

俺、坂田孝明同じ28。新郎の同僚なんだ。よろしくね」

隣に座ったイケメンが軽そうに言う。いかにも女慣れしていますって感じ。

「よろしくお願いします」

にこりと笑顔を向けた。坂田は飲み物を取ってくれて手渡される。

こう言う男は好きじゃない。態度と口と腰の動きが良さそうな男なんて眼中なし。

男は堅実で勤労でなくちゃ。ギャンブルもタバコも手を出さない男に限る。

けれど取りあえずこの場は楽しく過さなくちゃ。

こんなに大人数でわいわい騒ぐ機会も、25才を過ぎてから随分と減ったからね。

『オンナトモダチ』は大体25才前後で、デキちゃっておめでた婚とか、年上彼氏の

30代突入を機会に結婚ってパターンで、ここ数年の間に遊び仲間が随分減った。

 

盛り上がる会話。この場に居る男6人のほとんどが彼女が居ないと言っている。

所詮建前の言葉だろうけれど。別に関係ないから良い。

でも夏樹はすごく嬉しそうにしている。年下彼氏くんとの付き合いもマンネリ気味、

結婚してからも苦労するのが目に見えているからこそ、夏樹の目は本気だった。

「優、お手洗いに付き合って」

可愛らしい猫なで声の夏樹が目の前に立っていた。

おかげで隣に座った坂田の炸裂トークから引き離してもらえた感じ。

それにしても夏樹ってば、男達に混じる前とは歩き方まで女らしくなっちゃって。

思わず笑いがもれそうになる。我慢、我慢。

 

「ねえ、隣に座ってた高木健斗くんって人が、連絡先交換しようって言うのー。

でも彼氏いるじゃん?優だったらどうする?」

困ったわ、と言いたげな態度でグロスを塗りながら、鏡越しに視線を向けてきた。

けれど何だかんだで嬉しそうな声のトーンですけど。

「別に連絡先の交換くらいはOKじゃない?付き合ってとか言われたのとは別だし。

大人なんだから携帯番号とメールの交換は取りあえず挨拶程度でしょ」

夏樹は私の言葉に安心したのか、「そうだよね、挨拶よね」なんて笑って。

冷静ぶって澄ましているけれど、心の中ではガッツポーズしてる感じでしょ。

 

 

「遅いよー、はい優ちゃんの飲み物頼んでおいたよ」

席に戻ると、坂田がにこにこしながら自分の横の席をキープして待っていた。

「どうもありがとう」

にこやかに微笑んで返したけれど、心の中では毒吐きまくってた。

この顔だけ男のつまんないトークを延々聞かされるなんて嫌だから、取りあえず

席を移動して無口そうな男の横にでも座ろうと考えていたのに。

「いやー、優ちゃんって聞き上手で良いよね。見た目も普通で安心感ある感じ」

「そう?坂田さんは話し上手よね、美形だし」

「よく言われる。話してて楽しいって。まあ美形だねとかはたまに言われる程度」

美形もすんなり肯定ですか。話していて楽しいかどうかは個人の差があるのよ。

少し黙るって事も知りなさいよ!なんて考えながらも笑顔で坂田のトークに延々

付き合わされていた。

 

「そろそろ2次会はおひらきです。3次会に行く人!」

どこからともなく3次会の参加を呼びかける声が聞こえて、そんな時間なんだと、

夏樹の居た席に目を向けると、そこには夏樹の姿がない。

隣にいたはずの高木健斗の姿もない。

「あれ、夏樹どっか行ったかな?」

「さっき健斗と2人で出て行ったよ。健斗が『3次会はパスな』って言ってたから、

2人でどっか行ったんじゃないかな」

坂田は平然とした態度で言ってのけた。そして、一緒に飲んでいたメンバーで

一番地味で無口でぱっとしない清水友也が口を開く。

「これから2人で飲み直すって言ってた。優ちゃんに伝えてくれって言われたよ」

「そう、ありがとう」

笑顔で返す。けれど腸煮えくり返るって今の状況を指す感じ。

夏樹の浮かれ具合は理解出来るけれど、一言もなしに男と消えるってどうなの?

これだから『女の友情は薄情の始まり』だなんて言われるのよ。

 

そのまま2次会の会場を後にした。

何だかんだと結構飲んだせいか足元がふらつく。タクシー拾って帰ろうとしても、

新郎新婦ともに大手の会社に勤務している事もあり、参加人数の多い披露宴で

2次会に参加していた人数も半端じゃなかった。

タクシーは簡単に拾えなそうな人数がぞろぞろと居る。

仕方がなく歩こうとして、駅へと続く道へ向う。

「優ちゃんもこっちなの?」

その声に振り返ると、坂田が居た。

「駅まで行こうかと思って」

「俺も。一緒に行こう。夜遅いから危ないし」

結局断る口実も見付けられなくて坂田と一緒に駅に向うはめになってしまった。

 

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